植田栄治氏が語る、人口動態、リタイアメント、アジアの投資機会

2026-07-29

植田栄治氏が語る、人口動態、リタイアメント、アジアの投資機会

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アポロ・グローバル・マネジメントのパートナーであり、アジア太平洋地域代表を務める植田栄治氏が、ブルームバーグ・インベスト香港に登壇し、アジアを変容させつつある人口動態、数十年に一度の日本の経済変革、そして、この地域がプライベートキャピタルにとって決定的な機会となる理由について語りました。

概要

アポロ・グローバル・マネジメントのパートナー兼アジア太平洋地域代表である植田栄治氏が、ブルームバーグ・インベスト香港で、アジア太平洋経済に広がるパラダイムシフト、すなわち人口動態の変化による圧力が累積的に高まっていることを指摘しました。この地域全体では現在、(定年)退職者が約7億人に上り、2050年までにほぼ倍増して13億人に達すると見込まれています。こうしたなか、利回りを生む安全な資産への需要は構造的かつ大規模であり、その多くが満たされていません。同時に、アジアが世界の国内総生産(GDP)に占める割合は、20年前の約25%から現在は約40%に上昇しており、中国、インド、日本が世界五大経済国に名を連ねています。こうした経済成長を支えるには巨額の資本が必要です。アポロは、成長するアジア企業の資本需要を満たす一方で、高齢化社会を支えるリタイアメント・ソリューション(退職後の資産形成に向けた運用商品)を提供し、双方のニーズに応えることに注力しています。

日本は特に転換点を迎えています。25年に及ぶデフレを経て、インフレ率は3%近くまで上昇し、多くの市場関係者の予想以上に高止まりしつつあることが明らかになっています。こうしたインフレ環境が、企業と投資家双方の行動を大きく変えました。企業側では、自己資本利益率(ROE)の改善、賃上げの加速、追加的な設備投資へのコミットメントを求める圧力は、「守り」から「攻め」への真の移行を示していると言えます。この動きは、株価純資産倍率(PBR)を1倍超に引き上げるための明確な計画を策定し、余剰現金保有の説明を企業に迫る東京証券取引所(TSE)主導のガバナンス改革によって後押しされています。日本の名目GDP成長率は、おおむね1%から4%へと一気に上昇しました。

投資家にとっても、その影響は同様に大きいと言えます。従来、日本の退職者が利用できる金融商品は、ボラティリティが20%ほどの上場株式か、利回りの低い銀行預金に限られていました。インフレが進むなか、こうした従来の金融商品の魅力がますます薄れています。加えて、日本の人口減少が、変化の必要性を一段と高めています。昨年、日本国債に対する個人投資家の需要は約400億ドルに達し、3年前の約5倍となりました。これは、投資家心理がデフレ時代の受け身の姿勢からインフレに積極的に備える姿勢へ、数十年ぶりに転換したことを反映しています。こうした需要に応える適切な商品は、これまで提供されてきませんでした。アポロは、そのギャップの解消を日本における重点課題の1つと位置づけています。

人口動態という視点は、その他のアジア市場に対する植田氏の見解にも表れています。

  • 中国では、生産年齢人口が日本から30年ほど遅れて2010年頃にピークを打った。その結果として生じている実物資産のストレス、不良債権、消費の伸び悩みなどは、1990年代中盤から後半にかけて日本が経験した状況と重なる。
  •  韓国の軌跡はいくぶん異なる。アジア金融危機の際に多くの課題は概ね解消され、GDPの約44%を占める輸出にけん引された成長が、人口動態の逆風に対する有効な緩衝材としての役割を果たしてきた。

アポロのアジア太平洋全体でのアプローチには、同社がグローバルに適用している投資哲学が反映されています。すなわち、持続的な競争優位性を持ち、グローバル・インダストリアル・ルネサンス(世界の産業ルネサンス)のような長期にわたる構造的追い風を受ける企業に、主に投資適格級のキャピタルソリューションを提供するというものです。アポロは、こうした能力と退職所得への注力を組み合わせることで、成長するアジア経済を支え、急速に拡大する退職者層の貯蓄ニーズに応えようと努めています。

植田栄治氏 パートナー、アジア太平洋地域統括責任者

ブルームバーグのエリック・シャッツカー氏との対談で、植田栄治氏は、アジアを変容させつつある人口動態、数十年に一度の日本の経済変革、そして同地域がプライベートキャピタルにとって決定的な投資機会となる理由について語りました。

エリック・シャッツカー:最初に、本日のゲストをご紹介します。名刺にはアポロとありますが、入社してまだ日が浅いですね。

植田栄治氏:はい、入社したのは比較的最近で、7カ月ほどになります。

エリック・シャッツカー:その前は、運用資産額が2兆ドル規模に上る世界最大の年金基金、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の最高投資責任者を務めておられました。さらにその前は、ゴールドマン・サックスに30年在籍し、アジアの主要トレーディング部門で要職を歴任されました。ほかに補足すべきことはありますか。

植田栄治氏:お招きいただき誠にありがとうございます。本日お集まりのすばらしい皆さまと時間を共有できることを大変光栄に思います。投資に対する需要は世界的に非常に強いと考えています。人口動態に関して言えば、世界中で定年退職の大きな波が押し寄せています。

エリック・シャッツカー:それについて少しお聞かせください。いま私の好きな「人口動態」という言葉を使われましたが、人口動態はマクロ経済を見るうえで有益な視点だと思います。日本だけでなく、アジア全体を理解するうえで、なぜ人口動態は重要なのでしょうか。

植田栄治氏:アジアの独自性は、成長と人口動態にあります。アポロが20年ほど前にアジアでビジネスを始めた頃、アジアのGDPは世界の25%強にすぎず、世界の五大経済国に入っていたアジアの国は日本だけでした。しかし昨年、世界のGDPに占めるアジアの割合は40%に上昇し、現在では五大経済国のうち、中国、インド、日本の3つがアジアの国々です。つまり、経済は急速に成長しており、その成長を支える企業向けファイナンスが必要です。これが1点目です。2点目は人口動態です。アジア社会は高齢化が進んでいます。出生率を見ると、アジア経済が望ましくない局面に入りつつあることは明らかです。現在、この地域の退職者数は約7億人ですが、25年後には実質的に倍増し13億人に達する見通しです。退職者には、老後に備えて安全性が高く利回りを生む資産に投資したいという強いニーズがあります。アポロの戦略は、アジア全体で企業の資金調達ニーズと退職者の投資ニーズを結びつけることにあります。退職者には投資ニーズがあります。企業への投資機会をそこにつなぐこと、それがアポロの戦略なのです。

エリック・シャッツカー:この会場には、植田さんの日本に対する見方に強い関心を持っている方が大勢いらっしゃると思いますし、それはもっともです。日本について少し話しましょう。日本は数十年ぶりにインフレを経験しており、それに伴い重要な改革の機運も高まっています。日本国債の利回りは最近2.75%を上回り、日経平均が非常に好調であることは誰もが認めるところです。こうした刺激的であると同時に変動の大きい状況は今後どうなっていくのでしょうか。このリフレシナリオはどのように展開するとみていますか。

植田栄治氏:数年前までゼロだったインフレ率が、突然3%まで上昇しました。25年という非常に長い間デフレが続いていましたが、いきなりインフレ率が3%となり、しかも想定以上に高止まりし始めています。ここ数年、インフレ率は3%前後で推移しています。これが、企業と投資家の双方のマインドセットを変えたと思います。まず企業について言えば、政府や市場からの企業改革圧力を背景に、ROEを高める必要があります。従業員に対しては、より高い賃上げを実現する必要があります。さらに将来に向けた投資を増やす必要があり、設備投資を積み増していくことになります。したがって、企業全体のマインドセットは「守り」から「攻め」へと転換しました。これは大きな変化です。名目GDP成長率も1%から4%へと一気に上昇しました。

投資面でも、非常に興味深い動きが見られます。デフレがあまりに長く続いていたため、退職者や投資家が利用できる商品は、上場株式か銀行預金に限られていました。上場株式のボラティリティが約20%です。一方、銀行預金のボラティリティは0%ですが、実質的に利回りもゼロでした。インフレ率が3%に上昇したいま、人々は0~0.2%程度の利回りしかない預金に資金を置き続けることが難しくなっています。したがって、安全性が高く利回りを生む資産への投資需要が強まっています。その結果、昨年の個人向け日本国債の発行額は約400億ドルとなり、3年前の約5倍に増加しました。投資需要は大きく高まっていますが、適切な金融商品がこれまで十分に提供されてこなかったのです。

エリック・シャッツカー:その点について、投資家はインフレが日本の長期的な現実であることを理解しています。とはいえ、投資家の資産配分は国内資産に大きく偏っています。日本では、グローバルな金融商品、とりわけ流動性の低いグローバル商品への投資に構造的な障壁が多いなか、アポロのような運用会社は、日本で新たに生まれたリスク選好をどのように取り込もうとしているのでしょうか。

植田栄治氏:日本の長期的な成長率が低いことは広く理解されているため、人々のグローバル投資への意欲は実際にはかなり強いと思います。最近GDP成長率が4%に上昇したとはいえ、人口動態を踏まえれば、長期的には米国経済の方が高い成長率を維持すると多くの人は考えています。日本では現在、人口が年率約0.5%減少しています。出生と死亡による自然減が0.8%程度であり、移民流入がそのうち約0.3%を相殺している現状です。この減少率は、今からおよそ10年後には年率約1%まで加速する見通しです。人口が減少すれば、米国のように人口が増加している経済と同じ成長率を維持するのは容易ではありません。

ここで興味深いのが、私が以前運用していたGPIFです。日本の年金制度は賦課方式であり、現役世代の保険料で受給者の給付金を支える仕組みを採用しています。今後退職者は増加します。最大の年齢層は53歳前後で各歳約200万人に上ります。一方、毎年生まれる子どもは67万人にすぎず、すでにその3分の1にとどまります。つまり、はるかに少ない現役世代で、非常に大きな退職者層を支えなければならないのです。国民の80%以上が、人口減少の中で賦課方式を採用する公的年金制度だけに依存しています。したがって、公的年金制度以外の社会保障投資への需要は非常に強いと言えます。人々は、海外の成長率は日本の長期見通しを上回ると考えています。グローバル資産への投資ニーズは非常に強く、そこにアポロが果たせる役割があります。

エリック・シャッツカー:ここまで、かつて日本で起きた「日本化」と呼ばれる現象について話してきました。現在、中国が日本化していると言われていますが、中国にこの言葉を使うのは適切なのでしょうか。

植田栄治氏:多くの類似点があると思います。日本では、生産年齢人口が1990年にピークを打ちましたが、中国は日本から25年遅れて、2014~2015年頃にピークを迎えました。私は、人口動態が経済を左右すると考えています。日本で生産年齢人口がピークを迎えた後に何が起きたのか。ご存じの通り、デフレと不動産問題です。不良債権の問題も同様です。韓国でも人口が減少していますが状況はやや異なります。経済規模が日本や中国よりもはるかに小さいため、比較的少数の非常に強力な企業が、輸出を通じて韓国経済全体をけん引できるからです。日本と中国のGDPに輸出が占める割合は約10~20%にすぎませんが、韓国では約44%です。

エリック・シャッツカー:数十年前の日本が犯した致命的な過ちは、不良債権の認識を先送りしたことであり、結果として実質破綻銀行が延命しました。中国も同じ過ちを犯しているのでしょうか。

植田栄治氏:何とも言えません。中国は日本の経験から学ぼうとしていると思います。残念ながら、日本はこの種の人口動態の変化に直面した最初の主要国だったため、試行錯誤を重ねました。しかし中国は日本の経験から多くを学んでいるので、異なる対応を取ることは可能だと思います。

エリック・シャッツカー:ただ、こうした結果の一部は避けられないのでしょうか。人口動態がそうである以上、大規模な移民がない限り、ある程度将来は見えているのでしょうか。

植田栄治氏:たしかに、日本と中国には重なる部分が多くあります。ただ、韓国のように輸出主導の成長が状況を変えることもあります。中国は今後5年間、消費主導ではなく産業の成長を加速させる戦略を取ると思います。

エリック・シャッツカー:成り行きを注視しましょう。

植田栄治氏:そうですね。

エリック・シャッツカー:インドについて伺います。インドでは多くのことが起きています。世界最大の14億人の人口を抱え、理論上、世界で最も高い成長率を遂げている主要経済国です。アポロのような会社に大きな機会をもたらす市場です。インドのどこに期待し、どの点を慎重に見ていますか。

植田栄治氏:第一に、インドの経済成長率はアジアで最高水準です。第二に、経済規模は現在、世界第4位です。したがって、企業の資金調達と新規設備投資に対する需要は極めて大きいと言えます。銀行だけでは到底満たせない、数十億ドル規模の新規設備投資ニーズがあると聞いています。そのため、同国ではプライベートキャピタルが果たす余地が大きく、ここに非常に注目しています。もっとも、資本市場自体はまだ発展段階にあると思います。したがって今後、インフラ、規制、そして非公式な資本市場がさらに整備され、改善されていくことを期待しています。

エリック・シャッツカー:人口動態の話に少し戻りましょう。モディ首相は、インドの65歳未満の巨大な人口を「人口ボーナス」と好んで呼んでいます。この人口ボーナスは、人工知能(AI)時代になっても、本当にボーナスと言えるのでしょうか。AIが、インド経済の主要部分であるITサービスセクターに取って代わる可能性があることは明らかです。また、アポロ、J.P.モルガン、ゴールドマン・サックスなどがインド各地に置くグローバル・ケイパビリティ・センター(GCC)で働く何百万人もの人々にも影響が及ぶ可能性があります。

植田栄治氏:それはChatGPTに聞くべきかもしれません。ただ、AIをめぐるテーマについて、確信を持って予測するにはまだ早すぎると思います。確かなことは、特にインドではAIによるディスラプションが、データセンター、エネルギーインフラ、その他あらゆる関連プロジェクトを構築するための設備投資ニーズを大幅に増加させているということです。ご指摘の通り、インドの現地銀行はこうしたプロジェクトへのエクスポージャーに上限を設け始めており、プライベートキャピタルが果たす余地は極めて大きいと考えています。したがって、AIによるディスラプションは、アポロにより多くの設備投資機会を生み出していると考えています。ただし、長期的な未来を予測することは困難です。

エリック・シャッツカー:GPIFに在籍されていたときは、何世代にもわたる日本の退職者の将来を方向付ける意思決定の中核を担っていらっしゃいました。とても名誉な、大きな責任を伴う役割ですね。アポロではどのような形で違いをもたらせると考えていますか。

植田栄治氏:人口動態についてお話ししてきたように、私はやや独自の立場にいると思います。年金基金で働き、各国のリタイアメントサービスのエコシステムを理解した経験が非常に役立っています。アポロは米国最大のリタイアメントサービス会社であり、アジア各国、特に日本には、同様のリタイアメントシステムを構築する大きな余地があります。先ほど申し上げた通り、日本は人口が減少する中で賦課方式の年金制度を採用しています。各国、とりわけ日本におけるリタイアメントのエコシステムを理解していることは、退職者の関心が高い価値あるサービスを提供する大きな機会につながると考えています。

エリック・シャッツカー:本日はお越し下さりありがとうございました。盛大な拍手をお願いいたします。

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