2025-10-01
アポロのアジア太平洋地域代表、日本経済成長におけるプライベート資本の役割をブルームバーグ会議で語る
このインタビューは元々、2025 年 6 月 11 日にブルームバーグ TV で放送されたものです。
アポロのアジア太平洋地域代表であるマシュー・ミケリーニ氏が、ブルームバーグ・インベスト香港会議に登壇し、日本経済の構造変化においてプライベート資本の役割が高まっている点について語りました。
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まとめ
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転写物
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30年近く続いたゼロ金利政策を経て、日本は大きな構造変化を迎えています。インフレが戻り、賃金が上昇し、金利も一世代ぶりに上がり始めています。東京証券取引所を中心としたガバナンス改革によって、株主リターンへの注目も一段と高まっています。
ミケリーニ氏は、こうした変化が資本配分のあり方を変え、日本企業がイノベーションに取り組む中で、より柔軟な資金調達手段を模索するきっかけとなっていると説明。また、製造業の再生、エネルギー転換、デジタルインフラ整備などに必要とされる長期かつカスタマイズされた資金を供給する存在として、銀行中心のシステムを補完するプライベート資本の重要性を強調しました。
Sonali Basak: 本日はご参加いただきありがとうございます。アジア太平洋地域の活況の背景については、先ほど少し話があり、興味深い内容でした。まずは日本についてお話を伺いますが、この地域についても、構造的変化とマクロ経済環境などについて後ほどお伺いします。それでは、日本に投資機会を生み出している要因について詳しく見ていきます。初めにマクロ経済についてですが、金利環境の変化が日本に大きな変化をもたらす可能性があると言われています。これはどの程度の影響がありますか?
Matt Michelini: お招きいただきありがとうございます。金利環境の変化は非常に大きな影響があると考えています。日本企業のコスト構造は過去30年間変化がありませんでしたが、現在、インフレ率や金利の上昇、労働力の減少とそれに伴う賃金の上昇などのマクロ要因に直面しています。日本政府は賢明にも、過去30年にわたりゼロ金利が支えてきた停滞する経済をどのように強化していくか、という問題提起をしています。ゼロ金利政策は、損失や過剰労働力及び設備の問題を支えてきましたが、現在直面しているマクロ要因に対応するためのツールを日本企業にどう提供していくかは新たな問題です。この間、メディアも東京証券取引所も一連の改革を発表するなど、多くの変化がありました。これらの変化がカタリストとなり、アクティビストやスピンオフ、バイアウト会社、プライベート資本の提供者は案件数の大幅な増加を確認しています。だからこそ、日本がマクロ経済の逆風にどう対処するかに大きな期待が寄せられています。
Sonali Basak: 株主を重視する構造変化については後ほどにして、まずはマクロ経済についてもう少しお伺いします。日本の機関投資家は米国資産、特に米国債を大量に購入してきましたが、国内で金利が上昇する中、米国を中心に世界へ投資を促してきた調達通貨としての円への影響はいかがでしょうか。ある大手グローバル投資家は、市場では米国資産から資金を吸い上げる音が聞こえるかもしれない、と発言していました。
Matt Michelini: 確固とした見解を持つのは難しいです。いくつかの側面があります。まず、純粋にキャリートレードだけを見れば、どれほどの規模が解消されているかは誰にもわかりません。得られるキャリーとボラティリティを比較すると、少なくとも米国資産についてはキャリートレードは理に適いません。次に、日本企業が国内対比で有形資産に投資している場合です。日本銀行は数年前に、保険会社や銀行、事業会社に対し、「米国資産の資金調達に低金利の円を使うべきではない。米国に投資するために円を売れば、日銀が市場で買い戻すことになる。調達と投資の通貨を合わせる必要がある。」と警告しました。最後に、「吸い込上げる音」がどこから聞こえてくるかです。生命保険会社からではありません。生命保険会社は、数年前に米国で金利が上昇し始めた際にデュレーションを短期化し、それに合わせて資産を入れ替えました。新しいソルベンシー基準が適用さるため、良いタイミングでした。一方、個人投資家がNISA口座を通じて円を売り、米ドル建資産を依然として購入する中、年金基金は効果的にグローバル債券から国内へ回帰するという奇妙な力学が働いてます。
Sonali Basak: でプライベートクレジットに注力してきました。また、中国に出入りしてきたこれらの投資家は、いずれ中国に目を向けるようになるでしょう。
Sonali Basak: 次に、構造変化についてお伺いします。日本で起きている株主重視の改革については先ほど少し触れましたが、表面上は米国のヘッジファンドがその恩恵を得ようとする理由がわかります。プライベート市場の観点から見ると、何が重要ですか。
Matt Michelini: 私が3年半前にアジアに来る前は、資本市場に関する考えは米国で生まれ、アジアは数年後にそれを取り入れる、という通説が受け入れられていました。プライベート資本においては、まさにその通りになっています。例えば、私たちが手掛けたソフトバンクへの大型融資や、ソニーの米国資産の資金調達支援などです。他にも、私たちがどのようにして日本企業による米国資産の資金調達を支援しているかというニュースが多くあります。日本企業はプライベート資本の有用性を理解し始めています。30年間、彼らは銀行に頼るだけでした。銀行からの資金調達が安かったからです。お金がタダなら、相手が何を提供しているか気にしません。ただ受け取るだけです。しかし、今やお金はタダではなく、資本コストもコスト構造も上昇し、投資家は資本構成をどのように最適化するか考えるよう求めています。すると突然状況が変わり、本当に安い資金は銀行に、債券市場が必要なら債券市場に行き、カスタマイズされた又は長期的な資金が必要な場合はプライベート資本に目を向けるようになりました。
Sonali Basak: アンケート結果についても触れたいと思います。非常に興味深いのは、必ずしも借り手の需要の高まりが理由ではないということです。参加者の約4分の1だけが、それがプライベート資本への関心が高まっている理由だと回答しました。米国ではこの数字はもっと高いはずです。このアンケートでは、「差別化されたリターン」が第1位の回答でした。この点についてどうお考えですか。
Matt Michelini: 私は逆張り投資の会社出身なので、異なる意見です。トレンドの観点から見ると、今起こっていることの最大のプラス面である地域化は、実はトランプ氏とは全く関係なく、必然的に起こるべくして起こっています。地域化が進むにつれて、貿易政策の変化によって生じるボラティリティに依存しないビジネスモデルが生まれてきます。それが、アジアをより投資可能な地域にします。これは、地理的な分散が、何年ぶりかにポートフォリオで実際に機能することを意味します。しかし、投資家、つまり今日設定されているファンド構造や戦略を考えると、クレジットのリスク単位あたりの超過リターンを、アジア全体で規模を拡大して得ることは非常に困難です。なぜなら、すべてがニッチであるか、特定の戦略に特化しており、世界的なトレンドとは無関係にその戦略内で投資が行われるからです。ですから、私は、プライベート資本への関心の高まりは主に借り手の需要によると考えています。少なくとも、私たちのビジネスではそう見ています。先ほどテレビでも述べましたが、日本とオーストラリアの両国で、政府や企業が、10年プロジェクトの資金をどう調達するか?、15年は?、30年は?、を考えています。ここで日本の銀行を考えてみます。彼らのバランスシートでは、平均して融資期間は3年で、175ベーシスポイントの金利で貸し出しています。つまり短期で質が高いということです。では、より長期の融資や精査が必要な案件の資金調達はどうすればいいのでしょうか。プライベート資本に頼ることになります。借り手からの資金需要は今後増加していくと予想しています。銀行は必ずしもバランスシートで対応できるわけではありませんが、それでも大部分の資金を仲介することになるでしょう。
Sonali Basak:存知ない方のために、アポロの歴史において、そして保険会社への進出、保険・再保険分野での取り組みにおいて、あなたは非常に重要な役割を果たしてきました。これまでの経緯と、アポロの今後の方向性について教えてください。先ほどおっしゃっていたように、投資家は現在、新しい投資形態・商品を必要としています。
Matt Michelini: 日本の保険業界は今、本当に興味深い状況にあります。日本は貯蓄市場であることは周知の事実ですが、それは主にデフレが続いていることが原因でした。ですから、合理的な選択は、預金か、ゼロよりも良い利回りが保証された商品に投資することでした。年金保険は非常にうまく機能し、生命保険も非常にうまく機能しました。また、私たちの再保険事業を通じて、円建て負債を米国資産に投資し、それを米ドルに再換算することで、保険契約者により高い利回りを提供できることを実証しました。私たちは日本で非常に素晴らしい再保険事業を構築し、現在も事業を展開しています。今後は、新たな資本規制の導入により、貯蓄商品と投資型商品を組み合わせた商品が増えていくと見ています。これは非常に良いタイミングで、銀行に預けられている7兆ドルもの預金を見ると、その大部分は人生の最終章を迎えている人々が保有しているからです。彼らが亡くなると、そのお金は相続人に渡ります。相続人は投資商品に投資したいと考えるでしょう。ですから、日本は貯蓄の観点からも、例えば香港のような、より投資性のある商品の観点からも興味深い市場です。私たちは、貯蓄商品であればリタイアメントサービス事業を通じて利回りを保証することができ、投資商品であれば、預金者がより良い投資を行えるよう、「金持ちになる」商品ではなく「金持ちであり続ける」商品と呼ぶ一連の商品を用意しています。
Sonali Basak: これは将来の商品展開においてどのような影響がありますか。アポロはプライベート資産に投資するファンドのリテール化の最前線にいます。いつかiPhoneでアポロが見られるようになるかもしれない、と冗談を言ったことがあります。日本市場は競争が激しいようですが、日本の投資家にどのような商品を提供できますか。日本では米国よりもリテール向け商品を設定しやすいように思えます。
Matt Michelini: あなた方と同じように、様々な商品が提供されることになります。富裕層や超富裕層向けの商品があり、これは非常にリスクの高い商品です。プライベート・エクイティ商品は、ドローダウン(資金拠出)型で投資資金は引き出せない一方、投資家は20%以上のリターンを期待しています。しかし、これらの投資家は分散投資されたポートフォリオを持ち、適切な助言を受け、金融リテラシーも高水準です。その一方で、一般投資家向けの商品もあります。一般投資家は、より流動性が高く、あるいはより安全で保証された商品を選好します。私たちは基本的に、当社の3つの原則に従う限り、その中間に位置するあらゆる商品を提供できます。3つの原則とは、リスク単位あたりの超過リターンへの注力、下方リスクの抑制、そして私たち自身が、これらの顧客と共に購入したいと思える商品であるということです。
Sonali Basak: 流動性はプライベート市場で大きな話題になっています。うまくいくときもあれば、少しリスクがあるように見えるときもあります。どこまで流動性を提供できると考えていますか。
Matt Michelini: 公開市場でも流動性がうまく機能しない例が何度かありました。米国では、少なくとも投資適格債の分野が30兆ドル規模の巨大市場となる中、流動性の収斂が起きています。同市場は主に格付けによって動き、投資家のポートフォリオの中で様々な理由で入れ替えが必要となる部分となっています。流動性、デュレーション管理、マッチング調整管理、セクター、リスク管理など、様々な入れ替え理由が考えられます。ですから、米国市場では流動性が上昇していきます。アジアのプライベート資産ですぐに同程度の流動性を達成することは難しいでしょう。
Sonali Basak: 私たちが投資家とよく話す別のテーマは、トークン化というアイデアです。アポロもこのテーマに注力しているようです。特に香港の投資家は、プライベート資産に連動したトークン化ファンドを熱望しているようです。実現可能性、実現にかかる時間、懸念事項などについて教えてください。
Matt Michelini: 多くの議論が交わされています。香港でもシンガポールでも大きなトレンドになっています。大手のプライベートバンクは、どう実現するかを検討しています。主な目的は、顧客に対するより良いサービスの提供、コストの削減、持分の細分化です。持ち分の細分化により、投資先資産の流動性よりも少しだけ高い流動性を提供できると期待しています。進行中ですが、今のところは実験段階です。
Sonali Basak: 引き続き注視していきます。アポロの最近の資金流入に関してですが、アジアではどの地域からの流入が最も多いですか。
Matt Michelini: 香港、シンガポールの富裕層ビジネスが非常に大きく、主に両国からの流入です。最近は日本でも大規模な採用を行い、今後1年間でこのチームを大幅に拡大する予定です。依然として大規模な政府系ファンドからも資金が流入しています。保険会社からも資金が流入しています。保険会社は、プライベート投資適格資産の活用において、米国企業よりおそらく4、5年遅れています。理由の一つは、米国ではプライベート投資適格資産市場が大規模に存在するためです。多くの保険会社が、投資適格のプライベートクレジットからリスク単位あたりの超過リターンを得ようとしています。
Sonali Basak: アポロにおける今後 2~3 年の最大の成長分野に関するレポートがあるようですが、次のフロンティアについて教えてください。
Matt Michelini: 間違いなく富裕層と個人投資家へのアクセスは、最大の機会の一つです。富裕層向けに、伝統的な資産運用会社と提携して、プライベートとパブリック資産を組み合わせて提供することも含まれます。オーストラリアの年金制度であるスーパーアニュエーションも大きな機会です。同制度は2030年までに世界で2番目に大きな年金制度になる見込みです。これまでは積み立てに特化して設計されてきましたが、これからは取り崩しについても考える必要が出てきます。私たちのリタイアメントサービス事業やセーフイールド(安全な利回り)の提供は、うまく適合します。そして、日本の預金者へのアクセスです。7.4兆ドルの預金、2兆ドルの保険業界、2兆ドルの家計投資は、私たちのサービスにとって絶好の機会であり、投資家とのより効果的な関わり方を考える必要があります。これらが、3つの大きな機会です。
Sonali Basak: メガトレンドですね。変化球の質問です。米国はオーストラリアの年金制度をある程度再現できると思いますか。
Matt Michelini: 401k制度で似たような仕組みは既にあります。ですが、現時点で米国がオーストラリアの年金制度を再現できるとは思えません。同制度は30年かけて築かれました。どこかから始めなければなりません。
Sonali Basak: ミケリーニさん、ご参加いただきありがとうございました。本日話した内容は氷山の一角に過ぎません。アジアにいらしてから3年ちょっとですが、今後の活躍を楽しみにしています。
Matt Michelini: 3年ちょっと経ちました。お招き頂きありがとうございます。